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【大学卒業の思い出】今になっても分からないこと後編

【前回のあらすじ】
ずっと片思いしてた女の先輩の大学最後の夜に「泊まっていい?」と言われ女友達に相談したら「それはあんた、抱いてってことよ」と言われ万感の思いを込めて僕はコンドームを買いに走ったのだった。

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徹夜明けの先輩

自分が過ごしている部屋に、ずっと好きだった女の子がいる。目の前にいる。自分がいつも座っている椅子に、座っている。

こういう経験をしたことがある人ならば誰でも感じると思うのだが、それはもう、奇跡以外の何物でもない。今この瞬間、自分は世界の中心にいて、世界最強なのだ。全世界が僕を探していて、熱望していて、見つけられない。なぜなら、僕は自分の部屋に、大好きな女の子と一緒にいるから。

まあ、そんな感覚だった。「ああ、先輩、色、白いなあ」「目の前にある手に触りたいなあ」そんなことを思っていた。

先輩は前日が卒業式で、「昨日はオールだったの」とコートを脱ぎながら言った。大学の卒業式って、そういう感じなんだ、と僕は思った。

京都の3月は寒い。僕は、ささやかながら鍋を振る舞った。どうせ家だし、のんびりと気ままにできる鍋にしよう、と思ったのだった。

大学四年間を終えた先輩は、ちょっと疲れた表情を見せながらもよく喋った。大学時代のいろんな話を、少々感情的になりながら話してくれるのかと思ったけど、そんなこともなく、ただただ淡々と、世間話をしていた。

途中、何度か彼女の携帯が鳴った。いづれも、男性からだった。しかも、食事の誘いだった。携帯から漏れてくる音で覚えているセリフがある。「今日、最後でしょ?最後に会えないかな?」と、電話の向こうのどこかの男性は言った。
それに対し、先輩はこう言った。

「ごめん、友達と一緒にいるから無理なんだ。ごめんね」

僕は、自分が”友達”と呼ばれたことが嬉しかった。後輩じゃなく、友達。同じラインに並べてもらえたんだ、と思ったのだ。どこかの誰かが望んでいる、先輩との最後の夜を、僕は独占しているんだ、と感慨深いものを感じていた。

その時

いつものことだが、先輩はよくお酒を飲んだ。僕は飲めないのを知っていたので、一人でビールをガンガン飲んでいた。瓶が多分、3本くらいは消費した頃だったと思うのだが、先輩は唐突に言った。

「眠い」

まあ、そうだろう。前日徹夜だし、おまけにお酒飲みまくってるし。

「じゃ、じゃあ、寝ますか」

僕は急に緊張し始めた。テレビをつけながら鍋をつついていたのだけど、テレビを消すと途端に部屋の中は静かになった。うちは畳の部屋だったので、僕は布団を押入れから出し、先輩に少しどいてもらって布団を敷いた。

そこに、先輩が横になった。

僕がいつも寝ている布団に、大好きだった先輩が寝ている。

「僕も、入っていいですか」

と聞いた。

「うん」

と、彼女は言った。僕は電気を消して、先輩の横に入った。僕の左手に、先輩の右手が密着した。柔らかくて、温かった。僕の全神経が左手に集中した。布団の中では、二人とも無言だった。

しかし、僕はここからどうしていいかわからなかった。当時、そこまで女性経験が豊富だったわけではなく、かつ自分から押し倒したりしたことが皆無だったので、自分からどう行けばいいか分からなかったのだ。

そこで、僕はとりあえず手順を踏もうと思って、おもむろに先輩の頭を撫でた。

今は横にいるけど、あと数時間後には先輩は京都を去ってしまう。飛行機に乗って空を渡り、北海道に行ってしまうのだ。
こんなに好きで今一緒にいるのに、どうして離れ離れにならないといけないのかー、ぐちゃぐちゃな感情をを抱きながら先輩の頭を撫でていたその時、先輩は突然、むくりと起き上がった。

どんな表情だったのかはわからない。部屋は、真っ暗だったからだ。しかし、暗闇の静寂の中で彼女が放った一言を、僕はきっとずっと忘れないだろう。

「出てって」

「・・・え?」

「出て行かないなら、私が出て行く」

意味がわからなかった。何が起こったのかわからなかった。わかったことは、先輩が怒っていること。僕に出て行けと言っていること。出て行かないなら、先輩が出て行く、と言っていること。

いや、ここ、僕の部屋なんですけど・・・なんていう冷静なツッコミなんて思いつく間もなく、僕は慌てて部屋を出た。

結末

まだ寒い京都の夜中に、僕は一人追い出された。自分の部屋から。と言っても朝までだいぶ時間がある。どうしよう。とりあえず出て行けと言われたけど、しばらくしたら「ごめんね、一緒に寝よう」と言ってくれるかもしれない、と思って、僕は部屋の外の廊下に設置されていたテラスみたいなスペースに避難した。いつ先輩が声をかけてもわかるように、だ。

仲が良く、アドバイスをいつもくれる女友達にメールする。「ゴム買っとけ」と言った友達だ。取り急ぎ顚末を伝えると

「ちょっと意味がわかんない」

とのことだった。うむ、僕もわからない。

しばらくメールに付き合ってくれていたものの、友人が寝てしまうと僕は途端に暇になった。何本吸ったかわからないくらいにはタバコを吸い、自分の部屋に続くドアを眺め、京都の夜空を眺めた。
そうして結局、朝になった。先輩は伊丹空港から朝一の便で札幌にわたる。そろそろ起きないといけない時間だ。

僕は恐る恐る部屋に戻った。先輩は熟睡していた。僕は声をかけてそっと起こした。怖かったから体には触らなかった。

「ん・・・」先輩は明らかに朝は調子が悪そうだった。なんてロマンのない寝起きなんだと思いながら、僕はなんと声をかけていいかわからずしどろもどろしていると、先輩は「行かなきゃ」と行っておもむろに出発の準備を始めた。

「僕、伊丹まで送っていきます」
「いいよ、別に」
「いや、いきます」

返答がめんどくさくなったのか、先輩は何も言い返さず、僕と二人で部屋を出た。そして少し歩いたところから出ている空港バスに乗り込んだ。バスの中で、僕たちは無言だった。何か話さなくちゃ、と僕は思い「あの、昨夜はすいませんでした」と言った。「いいよ、別に」とだけ、先輩は返した。そうしてまた、僕たちは無言になった。

伊丹空港に着く。先輩の飛行機まではまだ時間があったので、僕たちはスターバックスに入って熱いコーヒーを買った。何だかもう、すべてが茶番に思えてきた。一体、何故僕はこんなことをしているんだろう、と思った。

「気づいてたかもしれませんが、僕、結局、ずっと好きでした」

と、僕は言った。

「もっといい人、いるよ」

彼女は、そう言った。

時間になって、搭乗ゲートに向かった。もう、最後なんだ。この人と一緒にいれるのは、最後なんだ。僕はなんとか、最後にお礼だけ言いたかった。しかし彼女は手際よく荷物を荷物検査ゲートに通し、何も言わずにゲートの向こうに消えてしまった。

一度も振り返ることなく、彼女は行ってしまったのだ。

「さようなら」も「ありがとう」も「じゃあね」もなかった。

僕は、もう、何だか全てがわからなくなり、泣いた。結構、泣いた。人が見ていようが何だろうが気にせず、声を上げて泣いた。

後日談と今になってもわからないこと

実はこの話には後日談がある。

その後僕も就職をし、東京に出てきたのだが、社会人二年目くらいの時にJR新宿駅のホームで、彼女とばったり会ったのだ。彼女は札幌で勤めた後、東京に異動になっていた。
最初、お互い信じられない、といった表情だった。でも彼女は以前と変わらず気さくに話してくれた。連絡先を交換し、「今度ご飯行こう」と言ってくれて実際に食事に行った。

以前、あんなに好きだった人なのに、もうピクリとも気持ちは動かなかった。相変わらずずば抜けた美人だったが、何も思わなかった。だから結局、彼女とは何もなかった。

実はその後も、僕たちは偶然の再会をする。帰りの路線が一緒で、電車の中でばったり会ったのだ。「これはいよいよ何かの縁なのかもしれない」と思うこともできたが、やはり何も思わなかった。帰り道を一緒に帰り、思い出話や仕事の話をお互いしながら、田園都市線の時間を一緒に過ごした。

その後も何度か、食事をした。

今ではもう、メールアドレスも知らないしLINEとかも知らない。facebookも繋がっていない。ただ、お互い住所だけは知っていて、年賀状を毎年やりとりしている。

僕はずっと、聞きたかったことがあった。

「あの時、僕はどうしてあなたを怒らせてしまったんですか?」と。

でも、結局聞かなかった。聞けなかったというのもあるし、聞いても仕方ない、と思ったからでもある。

今でもたまに、寒い夜を歩いているとあの時のことを思いだす。無茶苦茶泣いたなーとか、思う。
結局僕は彼女を抱くことはなかった。それはそれで、残念、という気持ちはないわけではないし、あの時は無茶苦茶傷ついた。

でも、未だにこうして若かったあの時のことを思い出せるネタになるんだから、まあ人生の思い出としては悪くないな、と思うのだ。
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