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エマ(森薫/完結)

コミックビーム誌において2002年から2006年まで本編、2006年から2008年まで連載された番外編が存在する森薫の漫画。ヴィクトリア朝時代のイギリスを舞台に、階級社会の人間ドラマを描く。2005年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞。

イギリスでは未だ残る階級社会

「労働者階級が成り上がるためにはサッカー選手になるかロックスターになるしかない」と未だに言われるイギリス。僕自身、感覚値としては正直理解できてないところはあるが、イギリスでは未だに階級社会があるらしい。
とはいえ、法律などで定められているわけではなく、階級社会は人々の意識の中にしっかりと根付いている、そうだ。
王族や貴族が属する上流階級、大学などに進学し、ビジネスマンとなっていく中流階級、そして義務教育終了後、速やかにブルーカラーになっていく労働者階級だ。基本的には自分の出自がそのまま階級となり、労働者階級の親に生まれたらそのまま労働者階級だそうだ。

僕が崇拝するブリティッシュロックバンドはだいたいが労働者階級。最近では意欲を持って勉学に励み、大学進学を果たす労働者階級も出てきたそうだが、基本的に労働者階級は労働に明け暮れ、週末はパブで呑み明かす。日本人が好む立身出世的な物語に憧れたり、日本風に言うと「意識高い」若者はあまりいないそうだ。それくらい、イギリス人にとって”階級”は意識の中に刷り込まれているのだろう。

作者の熱狂によって再現された19世紀イギリス

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この物語のメインテーマはずばり「許されぬ恋」だ。貿易商の生まれであるウィリアムは、ヒロインであるメイドのエマに一目惚れしてしまう。
しかし、一代で富を築いてきた厳格な父の反発にあい二人の仲は引き裂かれていくー、と言うまあ、特に奇抜でもなんでもない漫画ではある。

だがこの漫画の魅力はなんといっても「空気感」だろう。作者である森薫氏(女性)、どうも相当なイギリス&メイドマニアらしく、膨大な資料を趣味でかき集めている模様。そしてこれでもかこれでもか、と当時のイギリスの様子や空気感を漫画に再現しているのだ。風景や着る服など細部に渡り圧倒的な書き込みで描かれる。そしてそれらすべてにしっかりとした時代考証がなされている(らしい)。
エマの着替えシーン
メイドと聞くと、僕たち日本人は秋葉原文化的な”メイド”を思い出すが、この漫画で描かれるのはそうしたメイド像ではない。男性の性欲の矛先である現代日本的メイドではなく、古き良き大英帝国の気品の文脈の中にあるメイド。性的描写は全くないしね。

それは、かつてそこにあった人々の日々

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こうして再現された世界の中で描かれる、ある意味「日常系漫画」だ。物語を見せるというよりかは、そこで生きている人々の日常を見せているような気がする。セリフがほとんどないまま、キャラクターの動きと表情だけで進行するシーンも少なくない。この独特の「間」がこの漫画の個性でもあり、キャラクターに息吹を与えている。
そして息吹を与えられたキャラクターたち誰もがとてつもなく愛おしい。誰もが悩み、葛藤し、それでも自分たちの日常を精一杯生きている。

このように、産業革命によるイギリス絶頂の時代に生きる人々の日常は漫画の世界といえど温もりを感じることができるのだが、だからこそこの漫画の世界にはどこか切なさがつきまとう。
なぜなら、僕らは知っているからだ。ここで描かれている世界が確かに以前そこにあり、そしてその後イギリスを始め世界が戦争に巻き込まれていくことを。
この漫画ではそんな光景は描かれないのだが、漫画で描かれている世界があまりに生活感があるため、僕たちの生きる現代と繋がっているような感覚がある。変な言い方だが、「懐かしさ」があるわけだ。だからこそ、やがて彼らの住む世界が悲劇に陥っていくことが、切ない。リアルな分、切なさがあるわけだ。

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