メルカリ始めました▷

背中側で着替える少女

僕が高校二年生の頃だったと、思う。

学校でソフトボール大会というのがあった。どこにでもある高校の行事だ。
僕の人生にとっては本来的には全く意味がない行事。

で、僕は結構な弱小チームに入った。
男は確か僕ともう一人位しかいなかったのじゃないかと思う(僕のクラスは男が少なかったのだ)。

で、あまりにも弱いからみんなちょっと頑張って練習してみようぜという事になり、朝練なんてやってみる事になったのだ。

どこにでもある、高校生の日常の一コマだ。

その日、僕が朝早く登校してクラスに入るとどうも一番だったらしく、教室はもぬけの空だった。
僕は手早くジャージに着替えて誰か来るのを待っていた。

すると、チームメイトの女の子が来た。
目立つタイプではないが、目がぱっちりしていて可愛い。
あまり話した事はないが、実はちょっと気になっていた子だ。

「早いね」
「うん、何か早く起きちゃって」

「みんな、まだかな」
「うん、まだ、じゃないかな」

多少どもりながら会話をちょろちょろする。白々しい空気がした。相手も緊張しているようだった。
季節は夏の少し前だったから、夏服の制服を着ていて、僕は彼女のほんのりとした胸の膨らみを少し見たのを覚えている。
チェックのスカートからはみ出した、二本の足の膝小僧を見ながら会話をしていたのを、覚えている。

するとその子が、とんでもない事を言い出した。

「あたし、ジャージに着替えていい?」

「え、ここで?」

「うん」

「じゃ、じゃあ僕、しばらく出てるよ」

「ううん、いいよ、後ろ向いててくれれば」

「・・・」

そして彼女は無言で着替え始めた。

僕は慌てて後ろを向いた。

静かな教室の中で、シュルシュルという音だけが聞こえる。

僕の背中側で、ブラウスのボタンを外す音とか、シャツを脱ぐ音とかを息も絶え絶えで聞いていた。

蝉の断末魔と、彼女が発する音だけが、教室に残存していた。

あの時は律儀に本当に見なかったけど、ちょっと振り返ればその子の着替えている所がすぐそこにあった訳だ。
当時はまだ僕は女の子の裸なんか見た事なかったから、凄く、凄く興奮した。

そしてあの「シュルシュル」という音以外聞こえなかった春先の教室のあの空気だけは、未だに忘れる事が出来ない。

ソフトボール大会の結果は覚えていない。それくらい、僕には意味がない行事だったのだ。

僕らが高校を卒業して二年後、クラスメイトが死んだ。交通事故だ。

彼の葬式で久々に彼女を見た。
彼女は僕とあまり仲がよくない男子に抱きかかえられて泣いていた。
そうか、付き合ってたんだ、と思った。

あるいは僕があの時振り向いていたら、あの子はどんな顔をしたのだろうか。

全ては勿論分からない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です